仕事と人を知る
 
高崎量子応用研究所先端機能材料研究部
入構 年度平成25年度
現在の部署名高崎量子応用研究所先端機能材料研究部
卒業学部・学科理工学部物理学科卒(学部)、理工学術院先進理工学研究科修了(大学院博士課程)
志望動機を教えてください。
大学では物理学を学び、大学院に進学してからは、量子ビーム技術の応用研究を行っていました。博士課程に進学した際、日本学術振興会の特別研究員DC1に採用され、学位取得後は特別研究員PDとして高崎量子応用研究所に受け入れていただきました。その後、任期付研究員として従事する中で、この場所で研究を続けたいと思い、定年制採用試験を受け、現在に至ります。
現在携わられているお仕事の内容を教えてください。
私の所属する部門では、量子ビームが引き起こす様々な化学反応を用いて、新しい機能を持った材料を生み出す研究をしています。私が携わっているのは、生命科学や医療に役立つ「バイオデバイス」の開発です。細胞を培養するための基材や診断用のチップ、さらには体の中に移植して利用するような医療器具まで、全てを総称してバイオデバイスと呼んでいます。こうしたバイオデバイスは、生命科学や医療の発展には必要不可欠です。
バイオデバイスの研究について詳しく教えてください。
私たち人間の体は、約37兆個の細胞から構成されていて、細胞一つひとつがどういった動きをしているのかを調べることにより、生命活動や病気のメカニズムが分かります。解明のためには、体内から細胞を取り出して育てる培養技術が欠かせませんが、残念ながら、培養した細胞は体内とは異なる振る舞いをします。体内の細胞は、タンパク質や糖でできたゼリー状の物質にくるまれて活動していますが、取り出した細胞は、そのゼリーとは成分も硬さも全く異なる、プラスチック製のシャーレの上で育てられるためです。そこで私は、量子ビーム技術を活用し、体の中と同じような環境で細胞を培養できる基材を開発しています。この基材によって本来の細胞挙動を引き出すことができれば、より正確な診断や、迅速な治療法の開発につながると考えています。
お仕事の中で大切にされていることは何ですか?
研究者は専門性が高く、どうしても一つの研究分野に固執しがちです。しかし、バイオデバイスを世の中で役立たせるためには、量子ビーム科学や材料科学に留まらず、生命科学や医療現場のニーズを汲み上げて材料を開発し、技術を企業へ移転し、実用化するところまで考えなければなりません。そのためには、物理、化学、生物学、医学、薬学など各専門分野の研究者に加え、企業や医療従事者などの協力を得る必要があります。そうした観点から、様々な方々と積極的にコミュニケーションをとり、視野を広げることを大切にしています。
お仕事におけるやりがいを教えてください。
誰も見たことがないような現象を発見したり、これまでになかった新たな材料を開発できたりすると嬉しいです。そこに至るまでの苦労は多々ありますが、その分やりがいも大きいと感じています。開発したバイオデバイスを提供した医師や研究者から、「これまでの培養法では見られなかった細胞の挙動がはじめて見えた」と言っていただけると達成感があります。
お仕事における社会的な意義はどんなところにあると思いますか?
やはり、人の役に立ちたいという想いは、どんな研究者にもあるのではないでしょうか。私は、不治の病を1つでも減らしたいという想いを胸に働いています。治療が難しいとされる病気が未だに存在する要因の一つとして、患者さんの体内から取り出した細胞を、体の中と同じように培養する技術がないことが挙げられます。培養できないから病気のメカニズムがわからない、薬も開発できないから治せない。このループを断ち切る新たなバイオデバイスを実現することで、不治の病を減らすことができれば嬉しいですし、それがこの研究の社会的意義であると考えています。
QSTならではの環境のよさはどんなところにあると思いますか?
QSTの研究所内には、専門の異なる研究者がたくさんいらっしゃいます。彼らは、私一人では思い付かないようなアイデアをお持ちです。そのため、研究に行き詰まった際、すぐに質問や相談できますし、議論ができる環境に感謝しています。例えば、バイオデバイスに求められる機能や応用先などは、医学系・生命科学系の研究者にアドバイスをいただいています。様々な分野の専門知識や最新情報までも得られる環境は、QSTならではだと思います。
今後成し遂げたい夢や目標を教えてください。
突如として現れる未知の病は、これからも人類の脅威となりますし、医療技術が進歩した現在でも、不治の病は未だ存在します。私の目標は、開発したバイオデバイスによって正確な診断や創薬、さらには病気のメカニズムの解明に貢献することです。最近では健康や命を守る道具の一つとして、ウェアラブルデバイスなども登場しています。一昔前は考えられなかったような簡単な検査技術や、病気の予兆を発見する機器が開発される中、さらに未来の技術を身近な物にしていく。そして、最終的にはそれが珍しいものではなく、誰もが入手にできる道具になることで人々の健康に貢献できるよう、努力を重ねていきたいと思います。